グリッドをめぐるFAQ 2010.4.13                 小川水素/Mr.ポテトサラダ

                                                                     2010.4.13

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 [GRIDをめぐるFAQ]          
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Q1 「GRID」という作品の狙いは何ですか? 

A1 必要最低限の動きで、どこまで面白いことができるのかを試すことです。 

Q2 どのように作品を作っているのですか? 

A2 「GRID」では、基本的な動きを分析することから作品づくりを始めました。
例えば「歩く」動きなら、1) 立つ、2) 片足で立つ(体重移動)、3) 片足を前に運ぶ、4) 前足に乗る(体重移動)、といったように、四つくらいに分解できます。映像やダンサーの動きを見ながら分解していって、分解された動きの要素1) 〜4) を、もともとの「歩く」とは違ったかたちにアレンジする方法を考えてやってもらいます。 

Q3 お互いに手の高さを合わせるような動きはどんな発想から生まれているのですか? 

A3 人間の身体にはひとつとして同じものはないと思っています。ですから別の人が、あるいは多くの人が同じ振り付けを動く、誰か自分以外の身体に似せて動きをなぞる、ということに抵抗がありました。では、みんながひとりひとり異なる身体を持っているなら、どこがどのように違っているんだろうということにしだいに関心が向かっていきました。それを具体化する試みのひとつとして、「GRID」では、身体の各パート、床から目線までの高さ、床から膝までの高さ、などを手で測ってみることにしました。複数でやってみると、ひとりひとりの身体の違いが、目線の高さの差としてダイレクトに表現されます。 

Q4 その差がある人たちがお互いに高さを合わせるということにはどんな意味が? 

A4 異なる身長の者同士が目線の高さを合わせるためには、どちらかが、またはお互いが、身体を折り曲げて小さくなったり、背伸びをしたり、自分の目線の高さを調節しなくてはなりません。それは日常生活で他人と何かをわかりあうために、私たちが行っていることと同じです。 

Q5 「GRID」は「ゲームピース」ですか? つまり、具体的な振付けが決まっているのではなく、ルールだけが決まっている作品なんですか? 

A5 「GRID」にはルールが設定されていますが、いわゆる「ゲームピース」におけるルールとは少し異なるかもしれません。「GRID」にあるルールとは、振付けよりもダンサーに自由や即興性をもたせつつ、ある世界観を表すためのものなのです。 

Q6 そのルールとは具体的にはどのようなものですか? 

A6 「GRID」というモチーフが最初に生まれてからこのルールも発展してきました。3人で横一列に歩く→隣の人と同じ歩幅で歩く→同じ歩幅のまま、身体の方向を正面と横向きなど3人とも変える→同じ歩幅のまま一歩ごと身体の向きを変える→身体の向きが変わるとともに、前進のみでなく後進や横に進むなどの動きが加わる……というように。「3人で横一列に歩く」だけではルールだと思いますが、「隣の人と同じ歩幅で歩く」という段階では、ルールが身体の動きを規定するようになりますので、より振付けに近づいているといえるでしょう。 

Q7 「GRID」のダンサーに必要なものは何ですか? 

A7 ルールを通したコミュニケーションを楽しめる気持ち。ルールはコミュニケーションの方法だと思っているので、コミュニケーションを通して触れる新しい価値観を認めるための精神的な強さ、自分を守りすぎない勇気などが必要かなと思います。 それは身体的にも、当てはまります。

Q8 リハーサルではどんな練習が中心になりますか? 

A8 かなりの時間をマッサージや身体をゆるめることに使います。それはコミュニケーションをスムーズにするための準備として、自分が思い込んでいる自分の身体から、もともとのゆるんだ身体を取り戻すことが必要だからです。そして、10分間立ちます。それぞれが自分の中心軸を感じながら、「ただ立つ」という動きを行います。考えることを止めて、身体の感覚に意識をスウィッチする10分間の体験です。その後、自分の中心軸を意識すると同時に、自分以外の中心軸=他のダンサーの中心軸を意識してみます。空間のどこに他人の中心軸が立っているのかを想像します。そして、最終的に他人の中心軸と自分の中心軸を一致させて、一つの大きな軸(複数の軸をつないだ面)を複数の身体によって創り出す練習をします。 
 わたしのリハーサルは運動量はそれほど多くない方だと思うのですが、リハーサルが終わった後によくダンサーたちから、お腹がすくようになった、よく眠れるようになったと言われます。それはたぶん、身体の感覚に意識を集中し続けることを要求しているからでしょう。 

Q9 こうした一連の発想のもとになっているものは何ですか? 

A9私は色々なダンスを勉強しましたが、どんなダンスでも’感覚’することなしに”ダンスの型”を踊ると、リアリティに欠ける動きになると感じていました。ここで言う、’感覚’とは、身体の内部感覚、身体の外側の感覚(空間など)、時間やリズムに対する感覚などです。例えば、’歩く’という動きでも、歩く’方向を感じながら’ 歩いた方が、身体にとってリアルな動きになります。そういった所から、自分にとっての’振り付け’という行為は、動きを作ることと同じくらい、’何を感覚するか’が非常に大きな意味合いを含んでいます。そして、その’感覚’は、一人一人異なっていますので、コミュニケーションを取りつつそれぞれのダンサーが自分の感覚を探ることになります。異なる身体を持つものどうしが動くときに どんな感覚をわかちあうことができるのかを探ることが、私の創作のモチベーションです。その意味では、本当にダンサーたちがいてくれることによって作品ができあがるといっていいでしょう。私はインスパイアされるだけなのです。 

Q10 そのとき、ダンサーのどんなところにインスパイアされるのです 
か? 

A10 あるダンサーが私の要求する動きや感覚が体現できないというときには、特に想像力をかきたてられます。その人にとってどこがわからないか、何が感じられないかを知ることは、自分にとっては未知の感覚や世界を知ることになるので、非常にワクワクします。私は、自分の知らない感覚をいつでも発見したいのです。

 

(作成 小川水素/Mr.  ポテトサラダ)